ギターの音は木材選びで決まる
アコースティックギターの音を構成する要素は、無数にあります。
ボディの大きさや形状、ブレイシングの方式、組み込みの精度、弦の太さや種類、etc. ただ、最も大きな影響を及ぼすのが、使用する木材であることを疑う人は少ないでしょう。
ピックアップやエフェクターによる「後加工」を前提にしたエレキギターと異なり、アコースティックギターは生音が全てと言っても過言ではありません。
そしてその木材から発せられた音色を本質から変えることは、ほぼできないのです。
例えば、中音域が強く柔らかい音の木材で、エッジの立ったストロークプレイを聞かせるのは困難であり、ギターのポテンシャルを半減させている、とも言えるでしょう。
木材の特徴をしっかりつかんで、自分のプレイスタイルにフィットしたギターを選べるように、今回はアコースティックギターに使われる主な木材と、その特徴を紹介していきます。
木材には、それぞれ役割があります。それを説明しますね。
■アコギを構成する木材
アコギの木材は、トップ材、サイド/バック材、ネック/指板材の3つに大きく分かれます。
・トップ材…ブリッジを介して弦の張力を支えると同時に、ボディ全体にその振動を伝達。ギターの「鳴り」に大きな影響を与えます。
・サイド/バック材…トップから伝わった弦振動を、木材の振動によって増幅させる役割。ギターごとの「響き」や「音色」を作り上げます。
・ネック/指板材…弦振動を支える重要な役割だが、アコギではボディによって音色が形成される比率が高いため、木材のバリエーションは少ない。
■単板と合板の特徴
ボディ材を選ぶ際にまず問題となるのが、「単板と合板はどちらを選ぶべきか」というものです。
・単板…丸太から一枚板を切り出したもの。一般的に合板よりも振動伝達力が高い傾向にあるが、大きな木材が必要となるため高価。
・合板…複数の板を接着剤でつないで作られたもの。小さな板の組み合わせで作ることができるため、単板よりも安価な傾向。
音響特性だけで考えると、予算が許すのであれば単板を選ぶのがベターです。
特にトップ材については、弦振動をボディに伝える最も重要な役割のため、伝達力の高い単板が圧倒的に有利だと思います。
一方で、合板のメリットはその丈夫さです。
日本のような四季のある気候では、木材は環境に応じて変化してしまい狂いが生じやすいですが、小さな板を組み合わせた合板の方が変化に強い傾向があります。
もちろん最初から全然鳴らないハズレな単板もあれば、言われなければ気づかないほどの鳴りを見せる合板もあります。
基本的な特性を理解した上で、最初から決めつけるのではなく、予算に合わせて柔軟に試してみるのがよいでしょう。
■トップ材の種類
ギターの鳴りに直結する「トップ材」について、もう少し細かく説明します。
アコギのトップ材として最も要求されるのは「高い振動伝達力」です。
それゆえ使用できる材も限られており、現在はスプルースとシダーがそのほとんどを占めています。
スプルース…マツ科トウヒ属の針葉樹。建築材や家具などに利用されますが、ギターではアコギのトップ材として圧倒的なシェアを占めています。
同じ種類でも産地によって名称が分けられていて、それぞれ性質も少しずつ異なっています。
・シトカ・スプルース…北米原産で、スプルースの中でも最もポピュラー。通常「スプルース」と言えばこれを指すことが多いです。「シトカ」はアラスカの地方名で、スプルースの群生地です。柔らかい割に強度があって扱いやすく、クセのない硬質な音が特徴です。

・イングルマン・スプルース…シトカ・スプルース同様、北米・カナダ・アラスカに多く分布。軽さと強度を併せ持っており、硬質なシトカ・スプルースに比べると、柔らかく広がりのある音が特徴です。

・ジャーマン・スプルース…中央アルプスやドイツを中心に分布。
ヨーロピアン・スプルースとも呼ばれ、スプルースの中で最も硬質。その材質通り、輪郭がはっきりした芯のある音が特徴なので、フィンガーピッキング主体のギタリストに好まれています。

・イタリアン・アルパイン・スプルース…マーティンのカスタムモデルに使われることが多く、ヨーロッパに多く分布。
軽いタッチにもレスポンス良く反応しつつ、強く弾いても音が潰れない、バランスの良さが特徴。
・アディロンダック・スプルース…北米の東部を中心に分布。戦前のマーティンやギブソンの高級モデルに使用され、希少価値の高さから、近年は一部の高級ギターにのみ使用されています。
大きくパワフルな鳴りが特徴で、弾き込むほど倍音が豊かになると言われています。

シダー…ヒノキ科に分類され、赤みがかった色が特徴。
スプルースよりも硬度が低く、ウォームで柔らかい音が出ることから、クラシックギターなどナイロン弦のギターを中心に利用されています。

マホガニー…サイド/バックではおなじみの材ですが、まれにトップ材に利用されることもあります。
シダーに似た暖かみのある音が特徴。近年のマホガニー高騰により、「サペリ」という代替材が使用されることもあります。

コア…サイド/バック材ではおなじみですが、TOP材もコアに揃えたオールコアモデルも存在します。
材が重めなので音量はスプルースに及びませんが、独特な木目と、明るくきらびやかな中高域が、ファンを生み出しています。
