スライドギターとは
アコースティックギターに関心の人なら、誰でも耳にしたことのある音。
人のうめき声のような、むせび泣いているようなあの音。
あの音はいったいどうやって出しているのか、と初心者なら首をかしげるところです。
そうです、あのなめらかに弦の上を滑る音や独特のヴィブラートは、スライドギター奏法によるモノです。

スライド・ギターの起源には諸説ありますが、ひとつはハワイアンのジョセフ・ケケクが偶然、道で拾ったボルトがギターの弦に触れたとかこととか、クシを使ってギターを滑らせたのがきっかけなどと言われています。
一方で、スライドはブルースで発展したのだし、起源はアフリカでしょ、という人もいます。
アフリカには「ミュージック・ボウ」という楽器があり、それがアメリカ南部で「ディドリー・ボウ」などと呼ばれ、黒人たちに楽しまれたのが起源という節もあります。
これは自宅の壁や床に釘を打って針金を張り、これを金属片などで弾いて楽しんだというもの。
ブルースの特徴に「コール・アンド・レスポンス」というものがあります。
自ら歌い、それを追いかけてギターで応えるという演奏法です。
黒人が自らの日々の苦しみなどを歌う、それを自らの泣き叫ぶようなスライドギターで応える、そんな奏法が広がっていったのです。
いずれにしても、スライドギターはハワイアンやその影響からカントリー、あるいは黒人たちからブルースへと導入され、現代のロックやポップスでも活用されるようになったのです。
スライドギターの種類
デルタ・ブルースでは、ギターを弾く際に、左手の指に、ボトルネットと呼ばれる筒状の道具を指にはめて、弦の上をスライドさせる奏法が一般的です。

一方、ハワイアンでは、リゾネイターギターを使います。ナショナル社のドベラ兄弟はバンドの中でも音が埋もれないようにとスティール・ギターを開発しました。
ドベラ兄弟はやがて独立して、「ドブロ」を設立します。ドブロは通常のギターの形状のものと、ラップ・トップに分かれました。
ラップ・トップ型はハワイアンで採用され、ご存じのようなハワイアン・ミュージックの要となりましたが、一方で、カントリーの大物・ジミー・ロジャースは自らのバンドにハワイアンのプレイヤーを呼び込むなど、カントリーの中にもスライド・ギターが浸透していきました。それがペダル・スティール・ギターです。
スライドギターの開拓者

アコースティック・ブルースでスライドギターと言えば、ロバート・ジョンソンですが、マディ・ウォーターが都市部に進出するにあたり、都会のがやがやした酒場などでも対応できる大音量の演奏をするため、エレキギターでスライドを弾くようになりました。
その後はエルモア・ジェイムズなどブルース・ミュージシャンの中で愛されたスライド・ギターですが、次の世代にも引き継がれていくことになります。
ロバート・ジョンソンなとの古い演奏に刺激を受けたライ・クーダーや女性ギタリスト、ボニー・レイットほか、ブルースを超えたミュージシャンたちがプレイを始めたのです。
みなさんがよく知っているところでは、ローリング・ストーンズ、フリートウッドマックなどのアルバムでもスライド奏法が随所で聴くことができます。
そして、デュアン・オールマンの登場です。
スライド・ギターを愛する人で、デュアンの曲にのめり込まなかった人は少ないでしょう。
その後はまた次のスターたちが生まれます。ジョージ・ハリスンもその一人です。
時代は下って、最近ではベン・ハーパーなど、古いアコースティック・ラップ・スティール・ギターを弾き語るミュージシャンなども増えてきました。
日本でも憂歌団のギタリスト・内田勘太郎や、紀伊勝浦で独自の活動をしていた濱口祐自など、独創的なギタリストも存在します。
もはや、スライドギターはブルース、フォーク、ロックほかさまざまな音楽での不動の地位を築いたのです。
スライドギターの道具と奏法
もともとウイスキーのボトルのネックの部分を切り落として、指にはめたことから始まったスライド・ギターですが、そのような理由から、ボトルネック奏法などとも呼ばれます。
このスライド・バーですが、お好みでさまざまな材質が使われています。
もっとも一般的なのは、金属のものです。

これは実にパワフルな音を出すことができます。またガラス製を使う人も。滑りがよくスムーズな演奏ができます。
また、変わったところでは、陶磁器、木、骨、ポケットナイフ、ライターなども使う人がいました。
これらをはめる指としては、やはり小指がオススメです。
なぜならば、人差し指、中指、薬指が普通の演奏に使えるからです。
通常は薬指でバーを固定して使います。
またロック・プレイヤーの中には、薬指の第2関節まで入れたワイルドに演奏する人もいます。

セッティングとしては、やや弦高高めに設定していただき、バーを当てても、1弦のフレットに当たらないようにすることが大事です。弦はオープンチューニング対応で太めがよいでしょう。
ギターはもちろん普通のアコギやエレキでけっこうですが、リゾネイター・ギターがやっぱり雰囲気も音もスライド・ギターにフィットします。
チューニングはオープンDほか、オープンチューニングが一般的です。
なぜなら、スライド・ギターはフレットを横に平行移動する奏法が一般的ですから。
さて、ではそんな奏法で人々を魅了するギタリストたちをご紹介しましょう。
Kelly Joe Phelps

まずは、これを聴いていただきたいです。カントリーの名曲「Goodnight Irene」をブルース・フィーリングたっぷりに弾き込み、かつ歌い込んでいるのは、ケリー・ジョー・フェルプス。
フレッド・マクダウェルやロバート・ピート・ウイリアムスなどのブルースマンに触発されて、スライド・ギターを弾き始めました。
フォーキーな彼のサウンドに、スライドのブルージーなギターが相まって、繊細で寡黙な音世界を構築しています。
2012年の作品「Brother Sinner&The Whale」では味わい深いスライドを聴かせています。
Ben Harper

幼い頃から、フォークやブルースを聴いて育ったベン・ハーパーは、ラップ・スティール・ギターの「ワイゼンボーン」の名手です。
「ワイゼンボーン」はドイツ移民のギター職人による名器ですが、ドブロの陰に隠れて、認知度は低かったのですが、ベンによって、再び脚光を浴びた楽器です。
ベンはタジ・マハールのバンドなどでも活躍して、94年にレコードデビューしました。
自作曲は社会に対する批判精神も垣間見ることができ、フォークやヒップポップの影響も感じられます。
Duane Allman

言わずと知れた、オールマン・ブラザーズ・バンドのギタリスト。
彼のスライドギターはいまの全世界のロック・ミュージャンのリスペクトを受けています。
「Tle Allman Brothers Band At Fillmore East」は名盤中の名盤。「Eat A Peach」や「One Way Out」はオープンEチューニングで弾いています。
1971年本アルバムがゴールド・ディスクに認定された数ヶ月後、デュアンはオートバイ事故で亡くなりました。24歳という若さでした。
この動画の冒頭の曲「Don’t Keep Me Wrong」では、シンプルなリフにもかかわらず、ファンキーなスライド・ギターが心地よいです。
Ry Cooder

ウイスキーのボトルをカットしたと思われるボトルネックで、ブルージーな味わいを醸し出します。
ギター1本でこのうねり感を作り出すのは、まさにライ・クーダーの真骨頂。ライのスライドは、ちらっと聞いただけで、ライだとわかるほど、その個性が際立っています。
オススメのアルバムは、1977年の名ライブ「SHOW TIME」。アコーディオン奏者・フラコ・ヒメネスやソウルフルな黒人シンガーたちとの共演が素晴らしいです。
スライド演奏として秀逸なのは、「Jesus On The Mainline」。これは鳥肌モノです。
ウイスキーといえば、ライは日本のCMにも出ていました。
アメリカのバーボン「アリー・タイムズ」のCMです。
ウイスキーグラスをテーブルに置き、ボロボロのヴィンテージギターでスライドするライを見て、真似をした人もたくさんいるでしょう。
Brian Jones

ザ・ローリング・ ストーンズの元ギタリスト兼リーダーであるブライアン・ジョーンズも素晴らしい演奏を残しています。
「No Expectations」のアコギのスライド、たまりません。ワイルドでどこか抒情感のあるサウンドは、彼の名演と呼ばれています。ムービーではありませんが、その音色を楽しんでください。
内田勘太郎

日本にももちろん、魅力あるスライドを奏でるアーチストはたくさんいます。ご存じ、憂歌団のギタリスト・内田勘太郎もその一人。
すごいテクニックを持っています。憂歌団時代の演奏も舌を巻きますが、ソロでも聴かせます。
濱口祐自

紀伊勝浦の港町で活動を続けていた、奇跡のブルースマン・濱口祐自。
2014年には、還暦ながらレコードデビューを果たしました。勝浦弁を交えたトークに、スライド・ギターとフィンガーピッキングが大人の渋みを醸し出します。
この動画のようなドブロの演奏もかっこいいです。
Bonnie Raitt

スライド・ギターというと、なぜか男性プレイヤーが目立ちますが、どっこい女性でもイケてるアーチストはいます。
女性のスライドギター奏者として、もっとも有名なのは、ボニー・レイットでしょう。
どでかいボトルネックを指にはめ、男勝りの(!?)豪快なプレイは聴き応えありです。とにかくかっこいい。
Little Feat

リトル・フィートというバンドはご存じでしょうか。
アメリカン・ルーツ・ミュージックの影響の強いロックバンドでした。
つなぎを着た巨漢、ボーカルでギターのローウェル・ジョージのスライドもかなり気持ちいいです。バンドとしても非常に楽しめます。
ミック・テイラーとの共演のブルースもかなりのものです。
ここではミックを引き立て役に回っています。
まとめ
スライドギター奏法はハワイアンやアフリカン・ミュージックをルーツにさまざまなジャンルの分野で愛されてきた奏法です。
ブルースの初期から、現代のミュージシャンまでその音色に魅了され、虜になっているアーチストは数多くいます。
かつてむせび泣くように奏でられたサウンドも、現代ではポップスなどのフォーマットにもしっかりとおさまり、市民権を得ています。
この機に、みなさんもスライド・バーを弦の上を滑らせて、自分なりのサウンドに取り込んでみてはいかがでしょうか。