ギターの音に関わる事

ロック・ミュージシャンが愛したアコースティックギターの美しい演奏

ロックな男たちの「素顔」が見える

ロック・ミュージシャンにとって、アコースティック・ギターは、自らのルーツを語るひとつの表現手段です。

大音量で歪んだリフを繰り出すロック・ギタリストが、素の顔に戻り、繊細な手さばきで奏でるアコースティック・サウンドは、私たちの心を強く打ちます。

アコギ・ブルースはロック・ミュージシャンの原点

ブルース、カントリーは多くのミュージシャンの原点です。本コラムでも取り上げるキース・リチャーズもその一人。

2015年のドキュメンタリー映画『アンダー・ザ・インフルエンス』の中でも、彼はしばしばアコギを抱えていいます。それもまるで自分の分身を携えているように。

映画の中で、彼は言います。

「俺はブルースからはじめようと思った。ずっと(自分のキーは)Eだと思っていた。ずっとね、今日までね」 そう。ブルースが彼の故郷なのです。

アンプラグド・ブームでアコギが主役に

良質なピックアップやプリアンプなどもぞくぞく開発され、ミュージシャンたちは、アコギをもって大きなステージへと飛び出しました。

アンプラグド・ブームの到来により、アコギはエレキのサブ楽器などではなく、ロック界でも堂々とステージを支える存在となりました。

そんなロック・ミュージシャンの演奏するアコースティック・ギターを特集してみました。

Keith Richards

言わずと知れたローリング・ストーンズのギタリスト。

和んだ雰囲気の中で、ブルースの神様的存在・ロバート・ジョンソンの「32-20 Blues」を軽やかに弾いてみせます。

キースが弾くと、キースの音になってしまうのが、不思議です。

ロックの歴史をさかのぼると、デルタ・ブルースのロバート・ジョンソンの名前は外せないでしょう。

現在のポピュラー・ミュージックは、黒人音楽の影響を受けていますが、その源流には、ロバート・ジョンソンがいます。

生まれ故郷のミシシッピから、シカゴやニューヨークなどの大都会へと、旅をしながらブルースを伝えました。またレコードが発売されると、全米各地に広がっていきました。

ローリング・ストーンズのキースとブライアン・ジョーンズがロンドンの下町で一緒に共同生活をしていた頃、ロバート・ジョンソンのスライドギターを聴いていたとき、弾き手は、ロバート・ジョンソンともう一人いて、同時に弾いていたと思っていたという逸話もあるそうです。

それだけのテクニックが備わったプレイヤーなのです。

十字路で悪魔に魂を売りはらって、ギターの腕を身につけたといわれる「クロスロード伝説」は有名です。

そんなロバート・ジョンソンの作品は、さまざまなロック・ミュージシャンがカバーしています。

クリームの「Crossroads」は伝説ですが、そのほかにも、ローリング・ストーンズの「Stop Breaking Down」「Love in vain」、ジョー・ボナマッサの「Walking blues」、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの「They’re red hot」など、名演は数限りなくあります。

ちなみに、ロバート・ジョンソンは、アルバムのジャケットで、ギブソンのアコースティックギター「Gibson L-1」を持っていますが、それを実際に使っていたかどうかは不明です。

Stevie Ray Vaughan

テキサスのブルース・ロック・ギタリスト。

華麗なテクニックで、ストラトキャスターにチューブスクリーマーを効かせて、エモーショナルに操ります。日本でも、根強い人気を誇っています。

ロックがメインストリームの音楽として不動の地位を占めていった中で、ブルース・ロックのパワーを再認識させる象徴となったスターの一人として、レイ・ヴォーンの功績は大きいでしょう。

パワフルで攻撃的なギター・サウンドは、ロックで育った若者たちをルーツ・ミュージックへと立ち返らせる大きな起爆剤となったでしょう。

彼がアコギを持つシーンはあまり見られません。でも、ひとたびアコギを持てば、ブルージーなフィールを醸し出すのです。

David Gilmour

デヴィッド・ギルモアは、1970年代プログレッシブ・ロックの最高峰・ピンク・フロイドのメンバー。

彼のギターは、70年代の名作「Atom Heart Mother」のブレイクなどに貢献しました。

彼のプレイは、フォークやブルースなどをベースとしたシンプルかつメロディアスなサウンドを醸し出します。

パワフルなトーンにも定評があります。ストラトキャスターの使い手として知られています。

ピンク・フロイドのアルバムでは、しばしばアコギが使用されています。「Wish You Are Here」は秀逸。

当時、彼が使っていたのは、オベーションのカスタム・レジェンド「1619-4」でした。

日本ではなかなか見ることはできない名器です。そんなオベーションの使い手・ギルモアですが、ここでは、テイラーを使用しています。

余談ですが、テイラーを使う、ロック・ミュージシャンとしては、ジョン・フルシアンテもいます。

ふだんはマーティンのヴィンテージを使用する彼ですが、レッチリのワールド・ツアーの日本公演などでは、その取り回しの良さからか、「314CE」を使用していたこともあるようです。

J Mascis

J・マスシスは、アメリカのオルタナティヴ・ロックバンド、ダイナソーJr.のボーカルとギターを担当。

ノイジーかつポップサウンドで、1990年代のグランジ・オルタナティヴブームを支えました。

バンドでは、ジャズマスターを愛用する彼ですが、一人で巡る世界ツアーでは、アコギ一本で聴かせてくれます。

そのアコギはGibsonのCF-100E。このギターのオリジナルは、1951〜58年に製造されました。ニール・ヤングばりの荒々しい音をたたき出します。

アコギにはファズをかませて演奏することも知られています。

Kurt Cobain

ロックバンド・ニルヴァーナのボーカリスト兼ギタリスト。

90年代のグランジブームを牽引しました。フェンダーのジャガーやムスタングを好んで使いました。

カートは1994年に死去しましたが、彼の死後にリリースされた、「MTV Unplugged In New York」はプラチナ・アルバムに輝きました。

「MTV Unplugged」というば、エリック・クラプトンの名演が有名ですが、カートのギターもいつもの力強さとは打って変わった静謐な演奏が心地よいです。

本ライブでは、レア機・マーチンD-18Eを使用しています。ディ・アルモンドのピックアップ、コントローラーでしつらえられたボディはたいへん印象的です。

まとめ

彼らのほかにも、アコースティック・ギターを愛するロック・ミュージシャンは数限りなくいます。

エルビス・プレスリー、ビートルズにはじまり、ジミー・ペイジやデビッド・ボウイ、ブライアン・ジョーンズ、スティング、ジョン・フルシアンテ。

言わずと知れた、エリック・クラプトン。ほかにも、順不同ですが、ニール・ヤング、ポール・サイモン、ジョン・メイヤー、スライドギターで有名なデュアン・オールマン、ロビー・ロバートソン、T.REXのマーク・ボラン、ラグタイムが素晴らしいスティーブ・ハウ、ウエストコーストの雄・ジャクソン・ブラウン、王道D-45ほか、さまざまなアコースティック楽器を操る、ライ・クーダーなどなど、素晴らしいプレイを魅せるアーティストは数々います。

日本にもわれらが忌野清志郎や、中堅どころでは、弾き語りも素晴らしい秦基博をはじめとするたくさんのミュージシャンがいます。

アコースティック・ギターを奏でる彼らを見ることで、彼らの生の心象風景が見られるような気がします。

アコギでロックするのは、もはや必然ともいえるでしょう。エレクトリック・ミュージック全盛のこの時代、アコギで咆哮するのは、男のたしなみといえるでしょう。