縁の下の力持ち!? 「ブレーシング」で、アコギの響きは変わります!

見えないけれど音に重要な役割を持つブレーシング

前回まで、アコギに使われるトップ材、サイド/バック材についてご紹介してきました。

これらの材の組み合わせによって、無数の音色が生まれることはお分かりかと思いますが、音を構成する要素はもちろんそれだけではありません。

今回は、トップ材を縁の下から支えている「ブレーシング」について、お話しようと思います。

アコギをバラバラに分解したことのある人は少ないかもしれませんが、サウンドホールの中がどうなっているのか気になって、ほとんどの人は覗いたことがありますよね。

その際に、トップ材の裏に木材の骨組みが貼られていることに気づくかと思います。

その骨組みのことを、ブレーシングと呼んでいます。ソリッドボディのエレキギターには存在しない、アコギならではの仕組みです。

ブレーシングの種類を説明する前に、そもそもなぜアコギにはブレーシングがされているのでしょう? 

以前のコラムで、トップ材について「弦の張力を支えると同時に、ボディ全体にその振動を伝達。最も要求されるのは、高い振動伝達力」と書きました。

であれば、裏に骨組みを貼り付けることは「トップの振動を抑えること」につながり、マイナスにしかならない気がしますよね。

では、仮にブレーシングのないアコギを作ったとしましょう。

通常のマーティン弦のライトゲージを張った場合、ブリッジにかかる張力は70~80kgにもなります。

それを支えるトップ材の厚さは、せいぜい2ミリ程度。トップ材の多くを占めるスプルースは、そもそも柔らかめの木材であり、かつ単板で使われることが多い…。

理論的には鳴りそうなアコギでも、弦の張力に耐えることはまず不可能でしょう。

トップ材が割れたり、変形したり、チューニングが安定しなかったりで、ギターとしての機能を果たしてくれません。

また効果的に貼られたブレーシングは、アコギの音に締まりを与えて、よりよいサウンドにつながるとも言われます。

「トップ材を抵抗なく鳴らしたい」「でもブーミーにはならず、強度もしっかり持たせたい」…ギターの製作者たちは、この相反する要求にずっと悩まされ続けました。

張力に負けない強度を保ちながらも、振動をできるだけ阻害しないブレーシングとは、どのようにすればよいのか。

先人たちが苦労と工夫を重ねて生み出した現代のブレーシング構造は、サウンドホールの中に隠れた「作品」と言ってよいかもしれません。

■ブレーシングの種類

ブレーシングは通常、全体の骨組みの構造と、力木(ブレース)に施された加工を組み合わせて呼ばれます。

-構造から見た名称

・Xブレーシング

x-bracing

現在流通しているアコギで最も一般的に利用されている構造です。

非常に歴史が古く、1850年代のマーティンのアコギに、既に採用されていました。

ボディのセンターで力木が交差していることから、こう呼ばれています。

同じXブレーシングでも、ギターの種類や時代によって力木の交差点が異なります。

元々は今よりもサウンドホールに近い位置が主流で、ブリッジ部からの振動をできるだけ阻害しないように作られていました。

交差点が「前にシフトされている」ことから、フォワードシフテッド・Xブレーシングと呼ばれています。

しかし、音量を稼ぐためにヘビーゲージの利用者が増加する中で、トップ材が張力に負けて変形してしまうケースが多発してきました。

それを防ぐため、交差点をブリッジ側にずらすことにより、太い弦の張力に耐えられる強度を得ることに成功しました。

現在のXブレーシングは、ほとんどがこのスタイルになっています。

・ダブルXブレーシング

double-x-bracing

通常のXブレーシングは、ブリッジ付近に一箇所の交差点を設けていますが、ボディエンド側にもう一箇所の交差点を設けるパターンもあります。

当然トップの剛性は高まりますが、ボディの振動は抑えられてしまいます。1970年代にギブソンが採用したのですが、鳴りの大きさを求めるユーザにはよい評価を得られず、1980年代にほとんどが生産中止になっています。

後述するスキャロップド・ブレーシングを組み合わせることで、最適なバランスになるとも言われます。

・ファンブレーシング

fan-bracing

「ファン」とは「fan(扇)」の意味で、力木を交差させず、サウンドホールから扇状に伸びている構造です。

Xブレーシングよりも剛性は劣るものの、ガット弦やナイロン弦が主流のクラシック・ギターでは、弦の張力がそこまで強くはないので、伝統的にこの方式が利用されています。

音の強弱にしっかり反応する追随性の良さが、高く評価されています。

・ラティスブレーシング

lattice-bracing

「ラティス」とは「lattice(格子)」の意味で、力木が格子状に貼られている構造です。

力木の交差点が多いことから、非常に剛性が高く、音量の大きさ、反応の早さも兼ね備えており、クラシックギターを中心に利用されています。

ただし力木の使用量が通常よりも多くなるため、軽量化するための加工が必須になります。

-加工から見た名称

・スキャロップドブレーシング

scallop-bracing

「スキャロップド」とは、英語の「scallop(帆立貝)」から来た言葉で、「(帆立貝のように)波状にくり抜かれた」という意味です。

エレキギターの世界では、リッチー・ブラックモア、イングヴェイ・マルムスティーンなどのスーパーギタリストが、指板のフレット間を波状にくり抜いた「スキャロップド・フィンガーボード」を使用していて、聞き馴染みがあるかもしれません。

ブレーシングで使われる「スキャロップド」とは、力木が波状に削り取られていることを示します。

トップの鳴りを最大限に活かすためには、ブレーシングの質量を減らす必要があるのですが、ただ単に力木を細くするだけでは弦の張力に耐えられません。

先人たちは試行錯誤の結果、波状に削ることで音響と強度を高次元で両立することに成功しました。

軽いタッチでもボディ全体が鳴りやすく、フィンガーピッキングのスタイルに適しています。

・エアリーブレーシング

airy-bracing

ヤイリ製のアコースティックギターの一部に採用されています。

建築や飛行機などで使わるハニカム構造にヒントを得て、従来のスキャロップドのように波状に削るのではなく、複数の穴を空けることで力木の軽量化を実現しています。

従来よりもトップ材の鳴りが阻害されないことで、歯切れのいいサウンドが生み出されます。

ここで紹介したブレーシングは、あくまで現在の主流な構造に過ぎません。

アコースティックギターのルシアーたちは、使用材やボディの形状などに合わせて、最適なブレーシングを日々研究しています。

これまで誰も思いもつかなかった画期的な構造が、今後も生み出されるかもしれないと思うと、ワクワクしますね。

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